香川県の旅にて、憧れの堀部安嗣氏の時の納屋へ。
時の納屋は、さぬき市の瀬戸内海に突き出すようにある大串半島の大串自然公園内に佇み、見渡すと270度海に囲まれ、小豆島をはじめ瀬戸の島々を眺めることができる絶景スポットです。
この辺りは、バブル期には多くの観光施設もあったようですが、観光客が減少し再開発の声が高かったようです。
再開発では、環境、景観、自然と共生するということが重要視されているため、主役は建物ではなく自然ということが伝わってくる計画でした。
私達の心の中の過去・現在・未来のことをしまっておけるような場所となることを願って「時の納屋」と名付けられたようです。
建物に向かうメインアプローチに沿って段々と歩みを進めていくと目の前一面に瀬戸内海と小豆島が見え、時の納屋の全貌が明らかになってくるように計画されています。
建築へのメインアプローチ左手には、昔から地域に自生していた植物や芝生、地場産の庵治石(あじいし)などを置き、ゆっくりと緑が育っていくように計画され、この場所ならではの景観創出と環境保全が図られている点にとても好感を持ちました。
外観は、人々の記憶や原風景に影響を与える瓦の大屋根に杉の大和貼りの外壁。
杉は次第とグレーに変化し、風景になじみ、美しい経年変化がみられることが想像できます。
特徴的なのは、越屋根のデザイン。
これは、さぬきの原風景を思わせるベーハ小屋 (タバコの葉の乾燥小屋)をモチーフとされ、機能面でも効率的な自然換気を促し、太陽光パネルを設置することで様々な環境への配慮がなされています。
さらに、たっぷりとした軒下空間が設けられ、室内から眺める景色をより際立たせ、開口を日差しや風雨から守ると共に、公園利用者の拠り所となっています。
堀部氏のすばらしい考え方が、外部だけでもあちらこちらに散りばめられ感動しきりでした。
玄関扉を開けて中に進むと、内部もまた、デザインだけに固執しておらず、生の風景や自然の音を存分に楽しめるように1年のうちできるだけ長い期間、大開口を開けた状態でも不快でない温熱環境を目指されているとのことでした。
私が訪れた日も夏の暑い日でしたが、大開口に面した席に通して頂き、外を眺めておりますと、大開口をフルオープンにして下さいました。
深い庇と考え抜かれた温熱環境に配慮された設計のおかげか、海からの涼しい風を全身に感じることができ、何よりもぐっとおさえられた深い軒で絞られた瀬戸内海や空、海に浮かぶ島々の眺めは圧巻で、海と空の境界が分からないくらいの澄んだ青の世界でした。
さらに、木造でありながら大空間が生み出されており、嵌合接合(かんごうせつごう)という木材同士のめり込みを生かした挟み梁と吊り束によって支えられたとてもダイナミックな架構が力強い印象を与えながら、木造のあたたかく優しい色合いや雰囲気がこの場を訪れる人々の心を包み込むような印象もあわせもつ美しい空間でした。
挟み梁を生かした照明計画も必要な光だけを感じさせる計画となっているため、一番大切な瀬戸内の風景を妨げない演出で、細部にまで丁寧なこだわりがいき渡り、何時間でも滞在したくなるような空間でした。
建物もランドスケープも地域性や環境に配慮することなど、建築に携わるものとして勉強になることばかりでした。
デザインとそれらの共存こそが長年にわたり、様々な場所や立場の人に愛されるものとなり、経年変化を楽しむことを目的に再び足を運びたいと思わせることこそ、建築には不可欠だということも改めて感じさせられました。
とても素敵な空間でしたので、お近くに行かれることがございましたらぜひ一度、環境に包み込まれた素敵な空間を体感しに訪れてみてはどうでしょうか?(業務改革室 小坂)